ダニー・ボイル 『127時間』 レビュー

Review

予期せぬ事故に遭ったとき、
人はなにに目覚めるのか

ダニー・ボイルの新作『127時間』は、アーロン・ラルストンが自らの体験を綴ったベストセラーの映画化だ。主人公アーロンは、ユタ州のブルー・ジョン・キャニオンでいつものように週末のロッククライミングを楽しんでいた。ところが、不安定な岩塊とともに落下し、断崖と岩塊に右腕をはさまれ、無人の荒野で身動きがとれなくなってしまう。それから127時間、岩塊と格闘しつづけた彼は、生きるための決断を下す。

ボイルはこれまで様々な設定を通して人間のエゴを掘り下げてきた。『シャロウ・グレイヴ』(95)の三人の主人公は、それぞれに安定した仕事につき、洒落たフラットをシェアし、他人を見下している。だが、彼らの生活レベルを遥かに上回る大金が転がり込んできたことから、やがて騙し合い、殺し合うことになる。『28日後…』(02)の主人公たちは、ウイルスが蔓延する世界のなかでサバイバルを余儀なくされる。だがやがて、感染が生み出す恐怖を人間のエゴが凌駕していく。

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『哲学者とオオカミ――愛・死・幸福についてのレッスン』 マーク・ローランズ

Reading

オオカミという他者を通して人間とは何なのかを考察する

想田和弘監督の『Peace ピース』(7月16日公開予定)の試写を観たときに最初に思い出したのがこの本のことだった。そこでぱらぱらと読み返してみた。

最初に読んだときも引き込まれたが、今では著者の言葉がもっと身近に感じられる。それは、『ブンミおじさんの森』、『アンチクライスト』、『四つのいのち』、『4月の涙』(野生のオオカミが出てくる場面がある)、『蜂蜜』、『エッセンシャル・キリング』といった作品を通して、人間と動物の関係に以前よりも鋭敏になっているからだろう。

マーク・ローランズはウェールズ生まれの哲学者で、本書では、ブレニンという名のオオカミと10年以上に渡っていっしょに暮らした経験を通して、ブレニンについて語るだけではなく、人間であることが何を意味するのかについても語っている。

↓ この人がローランズだが、いっしょにいるのはもちろんブレニンではない。ブレニンは、各地の大学で教えるローランズとともに合衆国、アイルランド、イングランド、フランスと渡り歩き、フランスで死んだ。ローランズはその後マイアミに移り、この映像はそこで撮影したものだ。

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『幸せパズル』 『ラスト・エクソシズム』 『ゴーストライター』試写

試写室日記

本日は試写を3本。

『幸せパズル』 ナタリア・スミルノフ

アルゼンチンのナタリア・スミルノフ監督の作品。ゴンサロ・カルサーダの『ルイーサ』とか、ファン・ホセ・カンパネラの『瞳の奥の秘密』(09)とか、昨年の東京国際で公開されたディエゴ・レルマンの『隠れた瞳』(10)とか、けっこう気になるアルゼンチン映画だが、この女性監督も自然でこまやかな演出が光る。

平凡な主婦マリアは、ふとしたことから“ジグソーパズル”の才能があることに気づき、夫や息子との関係を通した自分ではなく、内面から自己に目覚めていく。

たとえば筆者が印象に残ったのは、料理とパズルのコントラスト。料理はコミュニケーションだが、夫も息子もわかってない。だから彼女はパズルにのめり込む。彼女はパズルによって内にこもるものと思う。ところが、そのパズルが、いつしかタンゴに近いものになっているというひねりがよかった。
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『Wolf Notes』 by AR (Autumn Richardson and Richard Skelton)

Listning

ランカシャーからカンブリアへ―スケルトンの新たな試み=AR

リチャード・スケルトン(Richard Skelton)の『Landings』についてはレビューをアップしたが、彼はその先にどのようなサウンドスケープを切り拓こうとしているのか。どこかのサイトのインタビューでは、A Broken Consort名義の新作を出すと語っていたような気もする。しかし一方では、これまでとは違う試みにも挑戦している。

ARはSkeltonの新たなプロジェクトだ。これはひとりの作業ではなく、ヴォーカリスト、Autumn Richardsonとのコラボレーションである。スケルトンの音楽では場所が重要な意味を持っている。これまでの作品ではその場所は、彼が暮らすランカシャーのWest Pennine Mooreや、家から遠くないところにあり、かつて農民が暮らした家屋の廃墟が残るAnglezarke Mooreだった。

●Type recordsによる『Wolf Notes』Stream
AR – Wolf Notes by _type

しかし、ARの『Wolf Notes』ではランカシャーからさらに北に向かう。カンブリア州にあるUlphaの風景、地名、動植物などにインスパイアされ、この土地へのオマージュになっている。

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『Peace ピース』 『おじいさんと草原の小学校』 『ハウスメイド』試写

試写室日記

本日は試写を3本。

『Peace ピース』 想田和弘

“観察映画”という独自のアプローチによってドキュメンタリーの可能性を広げる想田和弘監督。『選挙』(07)、『精神』(08)につづく観察映画第3弾は、平田オリザと青年団を題材にした『演劇(仮題)』のはずだが、そちらは編集中で、先に公開されるこの『Peace』(10)は、「観察映画番外編」という位置づけになっている。

あらためてレビューを書くつもりだが、やはり観察映画は面白い。テーマに縛られず、先入観を排除して、対象にビデオカメラを向ける。この映画では、人間の世界と猫の世界が対等なものとして描かれる。そこには共同体があり、決して楽とはいえない生の営みや老いがある。

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