『In The Mist』 by Harold Budd

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デレク・ジャーマン、サイ・トゥオンブリー、死者との交感

ハロルド・バッドは、『Avalon Sutra』でひとたび引退宣言をしたものの、それを撤回し、音楽活動をつづけている。『In The Mist』は、この1936年生まれのコンポーザー/ピアニストの年齢にも関わる境地を感じさせる作品になっている。

全体は、“The Whispers”、“The Gun Fighters”、“Shadows”の三部で構成されている。一部は静謐なピアノ主体、二部ではパーカッシブな要素が入り(といっても基本的なトーンは変わらない)、いくぶん動的になり、三部は静謐なストリング・クァルテットで締めくくられる。

『In The Mist』

harold budd – in the mist (album preview) by experimedia

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『ミラノ、愛に生きる』にはワリス・アルワリアも出ている

トピックス

ターバンがトレードマークのあの男がイタリア映画にも登場

『ミラノ、愛に生きる』のルカ・グァダニーノ監督への質問リストを作っているときに、この映画についてブログに書こうと思っていたのに忘れていたことを思い出した。映画ファンのなかには、ワリス・アルワリアという人物が気になっている人もいるのではないか。ウェス・アンダーソン監督の『ダージリン急行』で主任客室乗務員に扮していた人物。

最も印象に残るのはやはりスパイク・リーの『インサイド・マン』で刑事たちの尋問を受ける男ヴィクラム・ワリア役か↓。

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『羅針盤は死者の手に』の監督、音楽、衣装、プロデューサーに取材

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普段は楽天的だが、実は緻密な映画作りをしていることを確認

TIFFのコンペ作品『羅針盤は死者の手に』の監督アルトゥーロ・ポンス、音楽のエドガル・バロソ、衣装のアンナ・リベラ、プロデューサーのオスカル・ラミレス・ゴンサレスにインタビューした。紅一点のリベラがスペイン出身で、他の3人はメキシコ出身。ラテン的というか、とにかくノリノリで、一人に質問していても、みんなが次々に答え、通訳さんのメモが整理がつかないくらい長くなる。そして訳しだした通訳さんに声援を送る。

但し、映画の中身に関するコメントはどれも実に興味深かった。衣装から画像の彩度まで、細部から全体の流れまで、驚くほど緻密な作りをしていることがわかった。音楽のバロソが、この映画を10回以上観ているが、いまだに発見があると語っていた。ちなみにこの人、監督と昔からの友だちで、日本ではおそらくほとんど知られていないと思うが、拠点にしているアメリカでは作曲家/演奏者として認知され、いろいろ賞も受賞している。

“Sketches of Briefness” for Ensemble by Edgar Barroso. Performed by ICE (International Contemporary Ensemble). from Edgar Barroso on Vimeo.

“Engrama” for String Quartet by Edgar Barroso / The Diotima Quartet from Edgar Barroso on Vimeo.

ENGRAMA by edgarbarroso_2

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今週末公開オススメ映画リスト2011/10/27

週刊オススメ映画リスト

今回は『フェア・ゲーム』、『ウィンターズ・ボーン』、『ゴモラ』の3本です。

『フェア・ゲーム』 ダグ・リーマン

イラク戦争に前後する時期には、アメリカ政府やCIAのなかで信じがたいことがいろいろと起こっていた。フセイン政権は開戦前に裏ルートを通じて大量破壊兵器を保有していないことをアメリカに伝えようとしたが、アメリカはバグダードで会おうと、これを突っぱねた。

どうしても戦争がしたいアメリカが飛びついたのは、国外追放処分を受けたイラク人で、“カーブボール”という暗号名を持つ人物の極めて信憑性が薄い大量破壊兵器の情報だった。

バグダード陥落後、故郷で米軍に拘束された大統領補佐官アル・ティクリティは、イラクに大量破壊兵器などなく、とうの昔にすべて破棄されたと告げたが、兵器を探し出すというブッシュ政権の目標が変わることはなかった。

実はCIAは、このアル・ティクリティが告げた事実を開戦前につかんでいた。ところが、政府やCIAの上層部から圧力がかかる。『フェア・ゲーム』では、そこから起こった事件が描き出される。

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『Miles Espanol: New Sketches of Spain』 & 『Black Dahlia』 by Bob Belden

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ボブ・ベルデンはどこに向かおうとしているのか

才人プロデューサー/作曲家/アレンジャー/トランペッターのボブ・ベルデンによるマイルス・トリビュート・シリーズといえばよいか。前作の『Miles From India』は、マイルスの『On the Corner』という着眼点は面白かったが、マイルスゆかりのミュージシャンとインドのミュージシャンのコラボレーションについては無理をしている感じがした。

『Miles Espanol』は、マイルスとギル・エヴァンスの『Sketches of Spain』という着眼点、そしてマイルスゆかりのミュージシャンとスペイン人のミュージシャンのコラボレーションがぴたりとはまっている。ラテン・ジャズのクリシェに陥っていない。かっこよくて深い。

『Miles Espanol』

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