マット・リーヴス 『モールス』 レビュー

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レーガン時代のアメリカが少年少女の孤独を際立たせる

『モールス』は、トーマス・アルフレッドソン監督のスウェーデン映画『ぼくのエリ 200歳の少女』(08)のリメイクだ。オリジナルとの大きな違いは、舞台がストックホルム郊外の田舎町からニューメキシコ州のロスアラモスの田舎町に変わったことだけではない。導入部にレーガン大統領の演説が挿入される『モールス』では、レーガン時代のアメリカが物語に独特の陰影を生み出していく。

レーガンはソ連を「悪の帝国(evil empire)」と呼び、善と悪の対立の図式を強調した。善はこちら側にあり、悪は向こう側にある。雪に閉ざされた田舎町をアメリカの縮図と見るなら、アビーという少女は向こう側からそこにやって来ることになる。

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フランソワ・オゾン 『しあわせの雨傘』 レビュー



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女性の内なる欲望や抑圧を描き続けるフランソワ・オゾンの妙技

フランソワ・オゾンの作品では女優が特別な輝きを放っている。この監督は女優から豊かな個性を引き出してみせるが、そのことと彼が追求しつづけるテーマには深い結びつきがある。彼は女性の内に潜む欲望や抑圧や葛藤を、独自の視点で描き出そうとする。オゾン作品に登場するヒロインたちは、しばしば予期せぬ出来事に見舞われ、混乱する状況に対処することを余儀なくされる。

『まぼろし』(01)では、長年連れ添った夫が浜辺から忽然と姿を消してしまう。残された妻の心は、夫と過ごす日常という幻想と耐えがたい現実の狭間で揺れていく。アガサ・クリスティの世界とミュージカルを組み合わせたような『8人の女たち』(02)では、雪に閉ざされた屋敷で主人が何者かに殺害され、女ばかりの家族やメイドの秘密が次々に暴き出されていく。

『スイミング・プール』(03)では、愛人でもある出版社社長の別荘で過ごす女性作家の前に、編集者の娘と称する謎の少女が現われる。この女性作家は、現実と幻想が入り交じる世界のなかで、愛人との半端な関係を清算し、スランプを克服して新たな境地を切り拓いていく。

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クラウディア・リョサ 『悲しみのミルク』レビュー



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母親の世界を生きてきたヒロインが自己に目覚め、現実に踏み出すとき

マリオ・バルガス=リョサの姪にあたるクラウディア・リョサ監督の『悲しみのミルク』は、ベッドに横たわる老女が過去の悲痛な体験を歌で物語るところから始まる。彼女はペルーにテロの嵐が吹き荒れる時代に、極左ゲリラ組織に夫の命を奪われ、辱めを受けた。そして、母親の歌にこの映画のヒロインである娘のファウスタがやはり歌でこたえる。だが間もなく母親は息絶えてしまう。

この冒頭の場面は、ヒロインの立場や彼女がどんな世界を生きているのかを暗示している。ファウスタと彼女が厄介になっているおじの一家は、母親が体験した苦しみが母乳を通じて子供に伝わるという“恐乳病”を信じている。母親が心と身体に深い傷を負ったとき、彼女は娘を身ごもっていた。

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