グザヴィエ・ボーヴォワ 『神々と男たち』レビュー



Review

「人間」と「神々」のあいだ

■■修道士たちはなぜアルジェリアに残ったか■■

1990年代のアルジェリア。人里離れた村にある修道院でカトリックのフランス人修道士たちが、厳格な戒律に従い禁欲的な生活を送っている。彼らは礼拝を行い、畑を耕し、イスラム教徒の住民と親交を深め、弱者や貧者に奉仕する。だが、吹き荒れる内戦の嵐はこの辺境の地にも押し寄せ、非イスラム教徒の外国人が標的となり、命を奪われていく。そこで修道士たちは土地を去るか残るかの選択を迫られる。

グザヴィエ・ボーヴォワ監督の『神々と男たち』は、1996年にアルジェリアで起きたGIA(武装イスラム集団)によるとされるフランス人修道士誘拐・殺害事件を題材にしている。この事件は未だに不明な点が多く、謎が残されている。事件の背景には、アルジェリアと旧宗主国フランス、政治とイスラムの関係などが複雑に絡み合っている。

だが、この事件に最初に注目し、草稿を書いたエティエンヌ・コマールと監督のボーヴォワは、事件の真相に迫ろうとしているわけではないし、事件を通して背景を炙り出そうとしているわけでもない。彼らの関心は、内戦が激化するなかでなぜ修道士たちがアルジェリアに残る決心をしたのかに絞り込まれている。

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今週末公開オススメ映画リスト2011/03/03+α

週刊オススメ映画リスト

今回は2010年カンヌ国際映画祭でパルムドール(最高賞)を受賞した『ブンミおじさんの森』、同グランプリを受賞した『神々と男たち』、2009年度ゴヤ賞を7部門で受賞した『アレクサンドリア』、『再生の朝に ―ある裁判官の選択―』の4本です。

おまけとして『コリン LOVE OF THE DEAD』の短いコメントをつけました。

『ブンミおじさんの森』 アピチャッポン・ウィーラセタクン

「森や丘や谷を前にすると 動物や他のものだった 私の前世が現れる」という冒頭の言葉、森や里山の映像、鳥や虫の鳴き声や羽音、草木や風が生み出すざわめき、見えないものの気配。そうした要素が一体となった未知の映像世界に引き込まれる。

この映画の劇場用パンフレットに、民俗学、アニミズム、神話などからアピチャッポン・ウィーラセタクンの独自の世界を読み解く作品評を書いています。生者と死者、現世と他界、人間と動物を通して、日本と東南アジアを結びつける視点も盛り込み、この作品がより身近に感じられるかと思います。ご鑑賞の際はぜひ!

さらにこの『ブンミおじさんの森』は、ラース・フォン・トリアーの『アンチクライスト』と対比してみるとさらに興味深い。そういうレビューを「宝島」2011年4月号に書いておりますので、ぜひお読みください。

『神々と男たち』 グザヴィエ・ボーヴォワ

1996年にアルジェリアで起きた武装イスラム集団によるとされるフランス人修道士誘拐・殺害事件を題材にした作品。誰もが心を揺さぶられる映画だと思いますが、筆者が注目したいのは冒頭に引用される詩編82章。「私は言う あなた方は皆 神々である しかし人間として死ぬだろう」という言葉は、様々な意味でこの映画と繋がっている。詳しいことは「キネマ旬報」2011年3月下旬号掲載のの作品評をお読みください。

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『神々と男たち』『MAD探偵~7人の容疑者』試写



試写室日記

試写を2本観た。

『神々と男たち』 グザヴィエ・ボーヴォワ

フランス語の原題が『Des hommes et des dieux』、英語の題名が『Of Gods and Men』、そして邦題が『神々と男たち』。心を揺さぶられる映画であることは間違いないが、どう揺さぶられるかによって、この違いがかなり気になってくる。

『MAD探偵~7人の容疑者』 ジョニー・トー×ワイ・カーファイ

警官と彼の命ともいえる銃。警官たちの間で銃とその持ち主が次々とずれていき、幽霊が跳梁し、銃をとおしてみたときにはもはや誰が誰を撃っているのかわからなくなる。そのカオスと覚醒の落差がなんとも心地よい。